クジラくさくないスープ?
というわけで、麺とスープもいただきます。スープはもちろんクジラ。自家製クジラベーコンと、生畝須(うねす、ベーコンにする部位の生の状態)からとったスープがベースとなっています。
香りはほんのり“クジラ風味”。でも味は、初めて体験するうまみに満ちています。たぶんこれが“クジラ本来のうまみ”。ここに燻製の香ばしさがのっかって、 複雑な奥深さが生まれています。
“スープ=味の凝縮体”みたいなイメージがあるから、ある程度の臭みを覚悟していたけれど、これなら大丈夫。そしてこのスープがあるからこそ、刺身がよりおいしくなったのでしょう。きっと。
なお、麺はストレートの細麺。歯切れをよくし、スープに負けない香りを出すために、全粒粉を混ぜてあるそうです。
あまりに刺身に夢中になりすぎたせいか、だいぶスープを吸ってしまっていたと思います。が、個人的にはむしろこれがおいしかったので、結果オーライ。
なんだかんだ言いながら、あっという間に完食。自分のなかのクジラ史が塗り替えられました。ありがとう、麺屋武蔵さん!
「鯨」と「武蔵」
そもそも日本では、古くからクジラを食べる文化がありました。終戦直後には貴重なタンパク源として重宝されていたこともあり、給食で竜田揚げを食べた記憶のある方もいると思います。しかし捕鯨を制限する動きもあり、現在では食べる機会が少なくなりました。今回、鯨ら~麺を開発した渋谷店の店長(北海道出身)は、幼い頃から家でクジラを食べていたそうです。その経験から、“クジラを食べる文化”を体験してほしいと、「クジラ嫌いでも食べられるクジララーメン」を目指して開発に励んだとか。
もっとも苦労したのはスープ。身のほとんどは血といわれるクジラ、赤身を使えば臭くなりすぎるし、クジラベーコンだけだとクジラならではのうまみが薄い。そこで、ベーコンと畝須のスープを1対1であわせる、という結論を見出したそうです。
“文化”つながりでもう1つ。歌川国芳の浮世絵に「宮本武蔵の鯨退治」という作品があります。荒れ狂う海のなかで、画面いっぱいに描かれた迫力あるクジラ。その背では、麺屋武蔵の名の由来となった剣豪・宮本武蔵が、いまにもクジラを退治せんとしています。
奇しくも渋谷では、国芳の作品が並ぶ展示会が開催中。「鯨」と「武蔵」、まさに、これ以上ないタイミングで結びついたともいえるのではないでしょうか。
ちなみに展覧会には、この作品は出ていないようです
鯨ら~麺の提供は、5月26日から5月29日まで、1日10食限定です。価格は1杯2,000円(税別)。クジラが大好きな人には、あえておすすめしません。苦手な人にこそ食べてほしい1杯です。