スーパーなどで袋入りの菓子パン(または惣菜パン)を買う際、あなたは何を基準に選んでいるだろうか。お気に入りの商品をリピートする場合を除けば、たいていは商品名から得る情報をもとに選んでいると思う。
これら袋入りパンには、自己アピールを兼ねた名前のものが多い。たとえば「大きな」「たっぷり」などで“ボリューム感”、「ふんわり」「もっちり」「サクサク」などで“食感の良さ”をアピールするなど。多くの商品名は、このような“売り文句”+パンの種類(メロンパン、ロールパンなど)で成り立っている。
自分が重視するポイントで選べるのは便利だ。売り場に並ぶ他の商品に負けられない、という意気込みもわかる。
だが、ずらりと並んだ彼らの主張に、疲れてしまうことはないだろうか。私を見て、私を見て。まるで、自己アピールが強くないと生き残れない現代社会の構図のようだ。
フジパン「森の切り株」
そんな中ふと目についた、疲れた心にマイナスイオンを浴びせかける名前。それがフジパン「森の切り株」だった。森の切り株のような形のパン、ということだろう。
透明なパッケージに入ったパンの茶色をベースに活かし、白で切り株のイラストが描かれている。その周りに集まるリスやウサギたち。彼らはこちらに媚びた目線を投げかけるでもなく、必要以上に楽しげでもなく、ふだん通り遊び場に集合しただけ、といった風情。
下の方に小さめの文字で商品説明が「カスタードクリームをデニッシュ生地に折り込み、切り株風に仕上げました。」とある。手に取られて初めて自己紹介、という控えめさが好ましい。
袋を開けると、香ばしく芳醇な香りが漂う。高さ最大約5cmのどっしりとした円筒形、年輪のように折り込まれた生地の層は、まさに切り株。森の中にあっても違和感のないビジュアルだ。
きめ細かくやわらかなデニッシュ生地は、ほんのり甘く、香ばしく、軽やかな口どけ。カスタードクリームのひやりとしたとろみが、木陰の涼しさのようなアクセントを加えている。
形だけでなく、やさしい味わいもまた名前のイメージにぴたりとはまる。パッケージのたたずまいを裏切らない“癒し系”パンと言えよう。
なお価格はスーパーで100円前後。パン売り場という森で迷子になったら、ひと休みする気持ちで腰かけて…、いや、手に取ってみてはいかが。