さんまがおいしい。さんまがとてもおいしい。脂のうまみ、ワタのほろ苦さ、身のさっぱりしたところすべてが。さんまを求める心の声にしたがい、東京「目黒のさんま 菜の花」で、さんま定食を食べてきた。
目黒には、落語の演目にちなんでか、さんまを看板にしたお店がいくつかある。菜の花もその1つ。権之助坂本店はカウンター席に座って気軽に食べられる、ごく普通の居酒屋。看板メニュー「目黒のさんま定食」は800円(税込)。3日、13日、23日など3のつく日は750円だ。
献立は、丸ごと一尾焼いたさんまに、小鉢やお味噌汁、ご飯がセットになった、まさに過不足なしの定食。
落語の内容を知っている人には言わずもがな、目黒に海はなく、さんまはとれない。したがって菜の花のさんまは三陸から仕入れている。しっかり火を通した青魚は脂がほどよく落ちつつ、風味は十分。
パリパリの皮と一緒に身をほおばると、さぱさぱとほぐれやすい柔らかい身と、じゅあわっとした汁気が両立する独特の食感。さらにさんま特有の香りが一度に楽しめる。
またさんまは身の骨ばなれがよく、生来の不器用であっても箸で外すのが簡単なのがうれしい。いそいそと食べ進めてゆくと、やがてほろ苦いワタが舌を刺激する。ワタを楽しむかどうかはあくまで人によるが、記者はさんまの醍醐味と考える派だ。めりはりがつくし、ひとつの魚に、部位によっていくつもの味が眠っているというのはとても面白い。
4分の1ぐらい平らげてから、そえてある大根おろしをつけるとさっぱりして、また趣向が変わる。菜の花では、大根おろしにどっしり量があり、けちけちせずにいっぱいつけてほおばれる。さんまには塩味がちゃんとついているが、大根おろしには醤油をたらすとより、さんまの風味が引き立つ。
マカロニサラダ、きりぼし大根、お漬物もそれぞれしっかりしたできばえ。お味噌汁は豚汁。ご飯は一膳おかわりできるので、健啖家も満足できる。
お盆にのった器をすべて空に、お店の外に出てから、「さんまは目黒にかぎる」とおきまりのせりふを口にしたくなるのを、さすがにそこはぐっとこらえたのだった。
目黒のさんま 菜の花 権之助坂本店
東京都目黒区下目黒1-1-15菊ビル1F
住所:東京都目黒区下目黒1-1-15