お茶を入れたラーメンではない。“お茶で出汁(だし)を取った”ラーメン「玉露ら~麺」が、東京・新宿の麺屋武蔵新宿本店で提供されている。お茶で出汁をとるラーメンなど聞いたことがない。気になったので、実際に食べてきた。

“お茶で出汁を取った”ラーメン?
“お茶で出汁を取った”ラーメン?

玉露ら~麺は、高級茶として知られる「玉露」で取った出汁に特製の塩ダレを合わせ、タケノコ、豚もも肉、鶏肉を添えた一杯。織部焼で仕立てた特製の器で提供される。


一口すすって思わず、「なんてものを…」と言葉を失った。これまで食べたどのラーメンとも異なる深い味わい。スープが、玉露が、体のすみずみまで染み渡っていく。とんでもない一杯だ。

このラーメンの開発は、約1年半前、麺屋武蔵の矢都木店長が玉露と出合ったことから始まった。飲んだ瞬間「これは出汁だ」と感じ、これでラーメンを作りたいと試行錯誤を繰り返したそうだ。さまざまな産地、生産者の茶葉を試した結果、静岡県藤枝市の茶農家・前島東平さんが育てた玉露にたどり着く。世界緑茶コンテストで3回連続最高金賞に輝くなど、世界が認めた折り紙つきの茶葉だ。市場価格は1kg あたり数万円するという。

恥ずかしながら筆者は玉露を飲んだことがなかった。高級と言われるだけあり、なかなか手を出せないでいたのだ。取材時に初めて、お湯で抽出した玉露を飲ませてもらったのだが、「出汁だ」というのにもうなずいてしまった。甘みとほどよい渋み、そして独特の風味。一般的な緑茶とは全く別物だ。熱湯でいれると渋みが出すぎてしまうので、55度(茶葉によって前後する場合もあるようだ)でいれることが重要なのだそうだ。

ラーメン用の“出汁を取る”際には、この高級茶葉の上に静岡県の軟水で作った氷をのせて、3時間ほどかけて抽出し、水で割る。お湯や水での抽出も試したが、氷で抽出することで渋みがなく、すっきりとした後味になったそう。提供する際には55度にあたため、鯛の特製塩ダレと合わせる。麺を入れ、米油をひとまわし。具をトッピングして完成だ。

ペットボトルを加工して抽出道具に
ペットボトルを加工して抽出道具に

麺は、出汁を味わえるようストレートの細麺に仕立ててある。茹でたては熱すぎるため、またかん水(中華麺の製造に使われる副原料)の香りを抑えるために、茹でた麺を水で洗い、再びスープの温度に合わせて温める。具は脂っこくないものをと、低温で柔らかく仕上げた鶏のささみ、豚もも肉と、藤枝市岡部町産のタケノコをのせてある。

ぬるめのスープに入った麺は、そうめんのような滑らかさでするすると喉を通る。ほんのりと甘めに仕上げられたタケノコは、シャキシャキとした歯ごたえがあり、鶏肉と豚肉はまったくしつこくなく、スープの味わいを邪魔しない。

“スープを味わう”ための麺と具材に
“スープを味わう”ための麺と具材に

茶器にもよく用いられる織部焼の器は、スープを味わうのにピッタリだ。お点前をいただくときのように両手で器を持ち、スープを口に含む。味わいは玉露そのものに近い。だが塩ダレと米油によってコクが加わり、まろやかになっている。そして後味に玉露の香りが残る。

手になじむ器は特注品
手になじむ器は特注品

味わうポイントは、「ゆっくり食べる」ことなのだそう。温かい初めの一口と、食べるうちに冷めていった最後の一口とでは、感じる渋みや香りが変わってくる。温度が下がるにつれ渋みが減り、味わい深くなる。麺も具も食べきってスープを飲み干す「最後の一口」が至高なのだ。

さらに隣の小鉢には、玉露の出しがらをポン酢で和えたものが添えてある。産地の方に教えて貰った食べ方なのだとか。ふんわり柔らかな茶葉を噛むと、甘みと香りが口いっぱいに広がる。

抽出後の茶葉はポン酢で和えて
抽出後の茶葉はポン酢で和えて

玉露出汁のラーメン「玉露ら~麺」は、キワモノかと思いきや、玉露の深い味わいを再発見させてくれる、日本の文化を背負った芸術品ともいえる1杯だった。

最高品質の玉露と選び抜いた食材が惜しげもなく使われているにも関わらず、価格は税込1,000円。18時から1日10杯限定で提供される(11月末までの販売予定)。玉露は高級であるがゆえに、敬遠されがちだ。玉露ら~麺は、玉露を知らない人がその世界を知るきっかけになるかもしれない。