人気ラーメン店、麺屋武蔵の20周年記念企画『金乃武蔵』。各店舗持ち回りで月1回、1年かけて特別なラーメンが提供されてきました。いよいよ第12弾、最後の1杯。ラストを飾るのは、武骨(ぶこつ/御徒町)の「熊武骨」です。
なんとも荒々しい名前ですが、その味わいやいかに…?
◆熊肉が主役
今回、主役の食材は、「熊」。木の実をたっぷりと食べて脂ののったツキノワグマの肉(青森産と京都産)がどんと中央に鎮座しています。その量およそ100g! たぶんこれだけで、提供価格の2,000円を超えているはず。適度な歯ごたえがありつつも固すぎない薄切り肉は、噛むほどにうまみが染み出してきます。どことなくすき焼きみたいな味がする…と思ったのですが、どうやら完全に勘違い。後述する“熊スープ”でさっと湯がいただけだそうです。ということは、甘みのように感じたのは熊のアブラ? 熊、スゴイ。
この“熊油”、融点が低く、ヒトの体温でもすぐに溶けてしまいます。ふるくからマタギ(熊などを狩る狩猟集団)の間では、ハンドクリームのように使うなどと重宝されているそうです。実際に手にカタマリをのせてもらったのですが、あっというまに溶けて、サラリとした油に変わってしまいました。トッピングの肉の脂身も、半分くらいはスープのなかに溶け込んでしまっているそう。
ちなみに、日本で食べられるのは基本的にヒグマかツキノワグマ。個性の強いヒグマに対して、ツキノワグマはクセが少なく上品だといわれています。
筆者(お嬢)のおぼろげな記憶では、焼いたヒグマはけっこう獣臭かった印象。今回も熊と聞いてちょっと身構えたのですが、ある意味で期待を裏切るクセのなさ! そしてあふれるうまみ。熊肉のイメージががらりと変わりました。とはいえ、ヒグマも鍋で食べたら全然違うのかも。
◆難産だったスープ
スープももちろん熊が主役。骨をローストして強火で炊き上げてとった「一番スープ」と、その骨で再度とった「二番スープ」をブレンド、最後に熊のモモ肉でうまみを加えた“熊スープ”です。最も苦労したのがこのスープづくりだそう。豚骨スープの経験こそ豊富ですが、熊の骨は初めてだったという武蔵スタッフ(そりゃそうでしょう…)。温度帯や調理時間など、豚骨とはずいぶん勝手が違い、何度も試食を繰り返したそうです。
スープの引き立て役はみそ。糀屋三郎右衛門(東京・練馬)の“天然醸造味噌”が使われています。
ニンニクなどを熊のアブラで炒め、和歌山県そよご産のハチミツを加えてキャラメリゼ(キャラメル化)、みそや砕いた5種類の木の実、松の実、磨きゴマを加えて練り上げたものに、熊スープをあわせています。
まろやかで濃厚なみその奥からじんわりと主張してくる、何ともいえないうまみ。獣臭さはなく、「よくわからないけどめちゃくちゃうまみがあるスープ」な状態。これが熊骨の“味”なのでしょう。熊、スゴイ。
◆雪原の真ん中で食べたい
麺は、武骨オリジナルの「武骨麺」。強力粉でつくるためさくっと歯切れよく食べ応えがある太麺で、開店時からほとんど変わらないのだとか。しっかりとスープを絡めとってくれます。食べ終わる頃には体内からぽかぽかと暖かく、いっそ、雪原のど真ん中で震えながら食べたくなるような1杯でした。
…が、これで終わりではありません。“シメ”として、残ったスープにご飯を投入するのです。まずくなるワケなんてなく、もう、至高の一口でした。実は麺が180gと多めなのですが、満腹を押してでも絶対に食べてください。熊、スゴイ。
“熊ラーメン”こと「熊武骨」の提供は、12月28日から31日まで。1日10杯限定、価格は2,000円です。比較的お客さんの少ない初日がおすすめだそうですよ。
◆1年をしめくくる1杯
1年かけて提供されてきた「金乃武蔵」もこれでフィニッシュ。1杯2,000円と、ラーメンとしてはお高い価格設定ではありましたが、スープのとり方、選ぶ食材、調理方法などなど、「これをラーメンにするの!?」の連続でした。何度も武蔵スタッフの本業を忘れそうになりながら(!)レポートしてきました。特集ページにまとめているので、妄想しながらご覧ください。
来年はどんな“ら~麺”が登場するのでしょうか。もしかしたら、金乃武蔵のなかから復活する1杯があるかも?