豪雪地帯の岩手県八幡平(はちまんたい)市。雪に囲まれた土地に、夏野菜のピーマンを育てるビニールハウスがあります。真冬の岩手で育てられたピーマンは、3月1日、県内の一部ローソンに初めて出荷されました。
このピーマンは、八幡平市とローソンの共同プロジェクトにより、地熱発電所の廃熱と放置されていたビニールハウスを活用して栽培されたものです。(詳しくはこちらの記事をご覧ください⇒「真冬の岩手でピーマン栽培!? 地熱発電でエコに野菜づくり」)
現地で栽培を手がけるのは八幡平地熱発電プロジェクト。拠点であるジオファーム八幡平に代表の船橋慶延さんを訪ねると、なんと馬に乗った紳士が出迎えてくれたのです。“白馬の王子様のお出迎え”を経験する日が来るなんて…!取材陣、大興奮。
馬が好きすぎて農業に
ポクポク馬で進む船橋さんに(徒歩で!)ついていくと、いたるところに馬、馬、馬。ピーマン栽培とはまったく結びつきません。
ジオファーム八幡平は牧場ではありません。おもな商品は「馬ふん堆肥」と「マッシュルーム」。地熱発電を利用して農業を行なっています。
若い頃から馬が大好きだったという船橋さん。アルバイトで稼いだお金を全て馬―といっても、乗るほう(馬術競技)ですが―につぎ込む日々を送っていたそうです。前職も馬を育てる仕事。農業とは縁のない“馬尽くし”の生活でした。
そんななか、引退した競走馬のほとんどが殺処分されてしまうという現実をどうにかできないかと考え、馬ふん堆肥づくりに取り組み始めました。ジオファーム八幡平では、引退したサラブレッドなどを引き取り、かれらの馬ふんから堆肥をつくっています。
馬は胃を1つしか持たないため消化効率が悪く、大量の草を食べ、繊維がたっぷり残ったふんを出します。良質なエサを食べた馬からは良質な馬ふんがとれ、発酵させると良質な堆肥になるそう。こうしてできた堆肥は、地元の道の駅などで販売されているほか、ピーマン栽培にも利用されています。試しに馬ふん堆肥100%で育てたピーマンは、えぐみがとても少なく、すっきりとした味だったそうですよ。
マッシュルームは馬から生まれた?
もうひとつの看板商品「マッシュルーム」。こちらにはどのような馬との関係があるのでしょうか。
実はマッシュルームって、馬小屋の寝床に敷くわらの中から発見されたといわれているそう。馬ふん堆肥での栽培が最適という話もあります。馬とマッシュルームには、ふるくから不思議な縁があるのです。
マッシュルームの9割は水分です。八幡平のきれいな水で育ったマッシュルームは、生で食べると香りがとっても華やかでクリアな味わい。また後日アヒージョやトマト煮込みに入れてみたところ、長時間煮込んでも味が失われず、家族にも大好評でした。
盛岡市内のレストランにて
ところで、マッシュルームが生えているところって見たことありますか? 堆肥などでつくった培地の中から、にょきにょき、ぽこぽこ。丸い頭が顔をのぞかせています。
収穫したあとの培地は、良質な有機肥料として再利用できるといいます。これを牧草地にまき、育った草を馬が食べ、やがては馬ふん堆肥に。そして、その馬ふん堆肥でマッシュルームを育てられれば、地域の資源を目いっぱい生かして農業ができる――。船橋さんは、そんな未来を思い描いています。
土よりも軽いため、ビルへの負担が少ないのだとか
馬が楽しく生活できるよう
白馬の王子様よろしく馬に乗ってあらわれ、(馬への)愛情に満ちたまなざしで馬ふんについて語る“馬ふん王子”こと船橋さん。今後は、ピーマン栽培を拡大するとともに、さまざまな道をさぐっていきたいと話します。
すべては、馬たちがいい人生、いや、“馬生”を送れるようにとの思いから。ジオファーム八幡平産野菜のラベルのなかでは、馬がそっと野菜に寄り添っています。